多くのドッグフードの添加物として使用されている塩化ナトリウムですが、必要ないと言われたり、塩が添加されているドッグフードは腐っている原料を使用しているから、あるいは嗜好性を高めるために塩っぱくしているのだと言われたりしますが本当でしょうか?
犬にとっての塩分
犬にとって塩分は必要なものです。この点で異論はないと思いますが、どのくらい必要と言われているのでしょうか?
AAFCO(米国飼料検査官協会)の基準(2016)では、ナトリウムが必要な量として、子犬は乾物値換算で0.3%、成犬は0.08%必要とされています。
犬は汗をかかないから塩分を排出できない?
犬は人間と違って汗をほとんどかかないから塩分を排出できないと言われることがありますが、果たして本当でしょうか?
一般的な発汗量の人間が摂取した塩分の大半は尿から排出されます。汗をかけば必要な量は増えますが、かなりの汗をかかない限り意識してナトリウムを摂取する必要はないと言われています。
人も犬も同じように大半が尿から排出される以上、この説の信ぴょう性はかなり怪しいと言わざるを得ません。
ペットフードの原材料に含まれる塩分
ペットフードの原材料にはどのくらいの塩分が含まれているのでしょうか?
例えばペットフードの主原料によく使われる鶏肉(若鶏の胸肉・皮付き)だと、100g中に31mgのナトリウムが含まれています。パーセンテージとしては0.03%です。水分が含んだ量なので、ペットフードになると割合は上がりますが、ナトリウムを多く含む食肉でもこの程度です。穀物は更に少ないものが多く、大豆や玄米は0.001%です。原料だけでAAFCOのナトリウム基準を満たすことは困難だといえます。
(原料のナトリウムは文部科学省・食品データベースより抜粋/2015年7月現在)
野生化の犬は、獲物をまるごと摂取します。骨や血には多くのナトリウムが含まれており、それらをまるごと摂取することで必要な栄養素を体内に取り込んでいます。しかし、ドッグフードに使われる肉原料のほとんどは血や骨が取り除かれているため、ナトリウムの調整が必要となります。
ナトリウムの過剰
確かにナトリウムの過剰は、心臓や腎臓に疾患のあるワンちゃんにとっては避けるべきといわれています。健康体でも過剰量のナトリウムは不必要だと言えるので、そこまでの量を添加しているのであれば問題はありますが、ナトリウムより穀物(比較対象は小麦)のほうが原価は安いと思われ、あえてナトリウムを多く添加する理由に乏しいと考えられます。
塩分が嗜好性を高めるといわれることもありますが、犬の嗜好性に最も影響をあたえるのは味よりも匂いだと言われています。味についても、塩味よりも脂肪や甘みに対する感度が高いと言われていますので、嗜好性を高めるのであれば別のものを添加するのが合理的のように思えます。あえて塩分を添加する理由はないと言い切ることは出来ませんが、可能性としては低いのではないでしょうか。
塩分と高血圧
2010年に日本獣医師会雑誌に掲載された『正常犬・猫の高ナトリウム摂取における血圧および飲水量の変動』という論文において、腎機能の正常な犬および猫に高塩食を短期間与えても飲水を自由にするかぎり血圧に影響はないと結論付けられています。高塩食を長期間与え続けた場合の影響や、内臓疾患がある場合について、食塩感受性に個体差がどの程度認められるのか等の更なる研究結果が待たれるところですが、現在のところ健康な犬や猫において、通常の環境下における塩分摂取量の増加による高血圧のリスクは認められないと考えられています。
参考文献正常犬・猫の高ナトリウム摂取における血圧および飲水量の変動(2010年)
また、2011年に発表された『慢性心臓病の栄養管理を巡る新たな展開と可能性』という論文においても、うっ血状態が発現した動物ではナトリウムの制限が必要とされるが、うっ血状態を示さない軽度の冠動脈性心疾患の動物については、ナトリウムの制限の必要性や有用性が十分に検討されていない(≒はっきりしていない)とされています。食塩感受性の人におけるナトリウムとの関係が、食塩非感受性とされている犬や猫に当てはまるかどうかは議論の余地があり、少なくともナトリウム制限の人への有用性が犬猫においても当てはまるとは限らないと考えられます。
参考文献慢性心臓病の栄養管理を巡る新たな展開と可能性(2011年)
低塩食が猫の進行性腎疾患を悪化させるかもしれない
2004年にアメリカ獣医学会が発表した論文(Effects of dietary sodium chloride intake on renal function and blood pressure in cats with normal and reduced renal function)においては、低塩食が猫の進行性腎疾患を悪化させる可能性を指摘しています。この論文は猫の結果ですが、犬においても塩分は少なければ少ないほど良いというものではないという可能性が示唆されます。
尿へのナトリウム排出量が少なすぎると総死亡率等のリスクが高い傾向にある(人の研究)
人の研究において、2016年に発表された論文では、尿へのナトリウム排出量が少なすぎると総死亡率等のリスクが高い傾向にあるという内容が発表されています。まだエビデンスを積み重ねていく段階で、犬にも当てはまるかどうかはまだ分かっていません。
腐っている原料を使用しているから塩を添加する
よく腐敗原料を使っているから塩を添加しているという話を聞きますが、塩を使うと腐敗を抑えることは出来ますが、すでに腐敗したものを復活?させることが出来るということは私の知る限り聞いたことがありません。
また、通常のドッグフードは100度以上の熱を加えて加熱殺菌されるため、塩が添加されていなくとも腐敗菌の多くは製造工程で死滅します。
心臓疾患向け食事療法食に含まれる塩分量
ご参考までに、ロイヤルカナン社及びヒルズ社等の療法食に含まれるナトリウム含有率を一覧にしました。(2018年3月現在)心臓に配慮した療法食においてもこの程度の含有率になります。
製品名 | 100gあたりのナトリウム含有率 |
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ロイヤルカナン 心臓サポート1+関節サポート ドライ | 0.34% |
ロイヤルカナン 心臓サポート2 ドライ | 0.13% |
プリスクリプション・ダイエット h/d ドライ | 0.12%以下 |
ドクターズケア 犬用 ハートケア ドライ | 0.25%以下 |
AAFCOの基準を満たすほぼ全てのドッグフードにはナトリウム添加が必要
ドッグフードを、AAFCO基準のナトリウム量を満たすためには多くのケースでナトリウムの添加が必要で、塩(塩化ナトリウム)やナトリウム(Na)などの添加があっても、ほとんどのケースでは問題になりません。AAFCOの基準を満たさなければ、添加しなくても問題はないですが、その場合は健康に問題が生じる可能性が高まります。